はじめに
「水中乾燥」という、木材の保存方法をご存じでしょうか。「水の中なのに乾燥させる?」と不思議に思う方も多いかもしれません。伊勢神宮などの20年に1度の建て替え(式年遷宮)に使う材木の多くはこの方法で保存された材木が使用されています。
今回は、「水中乾燥」について紹介していきます。
目次
水中乾燥とは
水中乾燥とは、「原木を半年以上、水の中に浸けおき、長期保管をしながら乾燥を促す」という木材の保存方法を指します。
建材や家具など幅広い用途で使用されている木材ですが、木材は乾燥していくと割れや反りが発生してしまいます。そこで、加工の段階である程度乾燥させた木材を使用するのが一般的です。
昔は全国の至るところで実施されていた方法でしたが、今では人工で乾燥させる方法が増え、人工の乾燥に比べて手間と時間がかかることから、「水中乾燥」の事業委託者が減少していきました。
水中乾燥のメリット
木材は乾燥すると割れや反りが発生していきます。
割れの原因は表面と内部の乾燥の差にあります。木材は表面が乾燥すると収縮します。
しかし、木材の内部までは乾燥しておらず収縮の差が生まれてしまいます。ですからその表面と内部の力(応力)の勝ち負けが起こります。その力の逃げ道が木材の表面や小口で緩和され、それが割れとなって現れます。これを専門用語で木材の応力緩和と言います。
また、木が反る理由として、白太と赤身の水分量の違いが影響の一つです。木の新しい細胞は樹皮の外側(白太=しらた)と呼ばれる部分に層を重ねて成長していきます。若い細胞が多い白太は導管が多いため水分量が非常に多く、幹の中心を支える赤身の部分は古い年輪が重なり水分量が少ない状態です。
上記のように、木材は正しい扱いをしなければ反ったり、ネジレが生じます。
ですが、水中に長期間浸けることで、海水(塩分)による浸透圧により白太の細胞壁を破壊し、細胞内に海水が満ちることによって細胞内の水分が適度に抜けます。
陸上で乾燥する場合と比べて、白太と赤身の水分量を均一に近づけることができます。
以下、水中乾燥を行うことで生じる木材のメリットとなります。
干割れ・日焼けの予防
通常、陸上で保管した場合、数日~数週間で干割れや日焼けによる変色が発生します。水中乾燥では、水中に完全に原木を沈めることで酸素と太陽光を遮断します。そうすることで干割れや日焼けを抑制し、長期の保管を実現しています。
反り・ネジレの低減
海水による浸透圧によって細胞壁が破壊され細胞内が海水で満ちます。海水が満ちることにより細胞内の水分が抜けます。水分量が多い白太の水が程よく抜けて、赤身との水分量が一定に近づくことで反りや狂いが軽減すると言われています。
乾燥期間を短縮
水中に沈めた場合、すぐに原木内の水分が均一に抜けていくため、しない場合と比較して乾燥期間が短くなるので、“水中乾燥”と呼ばれています。
アクやヤニの発生を軽減
海水により細胞内が海水で満ちることで、特に若い細胞が多い白太の細胞内の水分が適度に抜けることにより、アクやヤニが抜けて木味が良くなります。
※木味が良くなる反面、屋外での使用には弱くなるケースもあります。
当社の「水中乾燥事業」について
当社(株式会社ヤトミ製材)では、「水中乾燥」を永年に渡り承継し続け、2019年「水中乾燥事業」として改めて始動しました。現在では受託事業者が減少しているこの保存方法を守る為、邁進していきます。
当社ホームページに水中乾燥の作業風景が掲載されています。是非ご閲覧ください。
まとめ
古くからの技術「水中乾燥」は、人工乾燥の台頭により市場ではほとんど使われることがなくなりました。ですが、人工的に乾燥させた木材に比べて、実際に水中乾燥した木材で建てられた建物は、モチモチした木肌でサッパリした印象です。
この古くからの日本の技術が今後見直され、水中乾燥で保管された木材がより多くの方の目に止まるよう願っております。
参考文献
銘木の伝世「古来から伝わる木材の乾燥技術『水中乾燥』とは」
集成材の生産・販売のことならトリスミ集成材株式会社「木材の表面割れと小口割れについて」
剪定屋空「木材の乾燥方法・水中乾燥について」
執筆者紹介
加藤 徳次郎
株式会社ヤトミ製材 代表取締役社長
1965年生まれ愛知県出身。その後、シンガポール・マレーシア・アメリカの製材工場勤務を経て、1989年(24歳)ヤトミ製材に入社。47歳の時、代表取締役に就任。木材業界35年以上の知識と経験で、御神木の保存活動や山車(だし)の車輪(ゴマ)製作など、製材のみに留まらず多岐にわたって活動している。趣味はスキーとカメラ。
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